あれはいったい?②

今日もいつもと同じ、何も変わった出来事のない穏やかな1日。

あれはいったい?の昨日のお題のパート②

またまた長い前置き。

有限会社の経営者だった時、社長である亡くなった旦那を慕ってくれてた取引先が数件あった。
その会社のひとつにMUさんって社長が居た。会社創立は父親だったんだけど、脳梗塞で寝たきりの後早くに亡くなって若くして2代目社長になっていた。
2代目は会社を潰すって良く言われるけど、MUさんは、先代の社長が元気だった頃から先代と一緒に更に若い頃から苦労して会社を大きくしてきたから、自分が行動するバリバリの人だった。
そのMUさんが、何故なのかは分からないけど旦那のことを慕っていつも大きな取引をしてくれていた。
自然、私もMUさんの奥さんとも親しくなっていた。
そのMUさんがある日、会社内で起きた事故で突然亡くなった。
就業中の会社内の事故で亡くなった場合、加入している保険によっては相当な保険金が下りる。
しかも対象が経営者である社長なのだから、数十億の単位。
従業員の生活を抱えているのだから当然と言える。
民間の生命保険にも学資保険にも加入していたからMUさんの奥さんは将来に何の不安もない。
私が務めた生命保険会社にMUさんの3人分の子どもの学資保険の契約があったから知った事実なのだけど。
学資保険の説明まですると長くなるからはしょるけど、要は契約者が死亡または重度の身体障害になった場合、その子どもが有る年齢に達するまで(契約内容によって年齢が違う)毎年契約した金額が支払われ、支払い事由が発生した時点で保険料は免除、更に満期には契約金が出るっていうのが一般的。
で、MUさんの奥さんは3人分の学資保険だけで、年間400万近くの保険金と遺族厚生年金(全て非課税)、労災共済、民間の生命保険金など色々含めて数十億の資産家となった。
元々裕福では有った。先代の社長が残してくれた財産も相当あったから。
けれどもお決まりの親戚内でのゴタゴタが始まった。
次期社長や会社経営について揉めに揉めて大変そうだった。
それで奥さんは会社から離れた。
元々集金や支払いに少しお手伝いする程度にしか関わって居なかったし、MUさんが亡くなった後、何もしなくても贅沢に暮らしていくには十分過ぎる収入もあったから。
例えば、急にラーメンが食べたくなったから飛行機で北海道まで日帰りしてきたとか、娘をカナダに留学させようと思うからアパートを見に行ってきたとか、実母と住むマンションをキャッシュで買ったとか等々、何でもない日常のことのように話す。
そんな話を聞く度、住む世界が違うんだなーってお伽噺でも聞くように思っていた。

ここまでが長い前置き。
本題はここから。

奥さんから「遊びにおいでよ。」と時々連絡を貰っていた。
生活の基盤である持ち家はかなりな田舎。
MUさんの実家の敷地内にあり、周りは親戚ばかりという典型的なもの。
MUさんが亡くなったからといって、そうそう直ぐに引っ越す訳にもいかないからと、週末だけ子どもたちを連れて実母のマンションに。実母のマンションは市内の中心。
子どもたちが成人する頃までには、こちらを基盤の家に持っていきたいと言っていた。
で、誘われるまま、田舎の方の家に。
何度か訪問したことのある玄関を開けると、微妙に色の違う同じ形のロングブーツが3足。
「何故に3足?」と私が聞くと、
「形が好きだから、洋服に合わせて。」との答え。
お金持ちだから出来るのなー、と私の心の声。
暫く楽しく雑談した後、唐突に奥さんが切り出した。
「ねえ、300万円持ってたら美味しい投資話があるんだけど、聞いてよ。」と。
その美味しい話、簡単に説明すると、
資産家の奥さんのメインバンクであるO銀行のI支店の頭取が、今300万円預かったら3年で600万円になる話がある、と言う。
「ねえ、どう?」って、私に聞いた。
「それが事実なら周りからかき集めてでも300万円作る。」と、その時は断った。
「この話は信用できる人にしか言えない本当の話なんだけど、残念だわ。」と奥さん。
それからも何度か遊びの誘いがあって数回マンションやら田舎の家に行ったりしたけど、その後その投資話は二度と無かったし、私もしなかった。

数年後、学生時代の知り合いがO銀行のB支店の頭取になったんで、ずっと気になってた奥さんとの投資話をした。
O銀行B支店の頭取になった知り合い曰く、
「そんな投資話、O銀行内で今まで聞いたこともないよ、良かったな騙されないで。」とのことだった。

あの時なら、300万円って大金、かき集めれば何とかなった金額だった。
確かに一瞬、心が動いた。
でも、玄関にあった洋服に合わせて揃えた似たような3足のロングブーツは、私のひと月の給与より高いものだった。住む世界が違う人のお伽噺の世界に私は住めないことも分かっていたから断ったんだし、愚かな私にでも分かる。たった3年で300万円が600万円になる投資なんかあるはずない。
親友という訳でも信頼しあっていたという訳でもないけれど、私は奥さんを信じていた。
だから、お金がある人の世界はお金が集まるように出来てるんやろなー程度に受け取っていたのだけれど、知り合いの頭取の「騙されなくて良かったな。」の一言は辛かった。

ねえ、MUさん(の奥さん)、あれはいったいなんだったの?
あなたは私を騙そうとしたの?


MUさんの奥さんと私には、MUさんが亡くなった後、私の人生を大きく左右する出来事に深い関わりがあった。
だからかもしれないけど、本当に信用していた。