あれはいったい?①

あれはいったいどういうことだったんだろうと、時々思い返すことが何件かある。

もう15年位前のこと。

少し前置きが長くなる。

Yさん(男性 私よか4才年上)のこと。
私がまだ二十歳位の頃、「良い人が居るから紹介したいので、この店においで。」と姉から連絡が有った。
この店っていうのは、私の亡くなった旦那がやってたカウンターだけの小さなスナック。
亡くなった私の旦那とYさんは4才違いなんだけど、若い頃から水商売仲間で知り合いだった。
旦那はどうしても自分の店を持ちたくて長男に借金して小さな店をやっていた。
8人も座れないくらいの本当に小さなカウンターだけのスナックだったけど、時代が良かったのか場所が良かったのか従業員無しの男ひとりが良かったのか、そこそこ繁盛してたらしい。
Yさんは水商売から足を洗って電気工事関係の仕事をしていたんだけど、週末とか旦那の店が忙しい時にはヘルパーに来ていた。
姉が旦那の店のどの程度の常連客だったのかは知らないけど、ヘルパーで来ていたYさんには今彼女が居ないのを知る位には常連だったんだろうな。
で、それなら妹(私)も今彼氏が居ないみたいやから紹介しようか?な話が出て、私が呼ばれた。
「シブがき隊のモックン似」の人を紹介するからって言われて断る人居る?
で、そのシブがき隊のモックン似の男性見たさに、旦那のスナックに初めて行った。
Yさん、確かにシブがき隊のモックン似。
あまりにイケメン過ぎて、少し引いた。
その頃の私は某化粧品メーカーの美容部員やってたから、化粧が完璧な二十歳のぴーちぴちやから可愛くないはずはない(多分)から、話しはむっちゃくちゃ弾んだ。
がしかし、運命のイタズラなのか、その時の私は旦那の方に一目惚れしてしまった。
Yさんがあまりにもイケメン過ぎたのと、旦那が大人な雰囲気過ぎたのにやられた。
まぁ、それから旦那の方と付き合うようになって最終的に結婚したんやけど、Yさんとはあくまでも旦那のお友だちという関係で長いこと家族ぐるみでお付き合いしていた。
Yさんも結婚して皆で海水浴にも行ったしキャンプにも行ったし家で数え切れない程夕食も出した(奥さんは殆ど来てないけど)。
Yさん夫婦には子どもが出来ず、暫くしてあまり上手くいっていないと旦那には聞いていたけど、離婚はしていなかったと思う。

で、ここまでが長い前置き。
本題はここから。

旦那が亡くなっても私にとってYさんはやはり旦那のお友だち。それ以上でもそれ以下でもないし、これからもずっとそのつもりだった。
生命保険の外交員を始めてから、Yさんに会うようになった。勿論保険を勧めるため。
友人の奥さんが旦那が亡くなって保険の外交員を始めたから少し力になってあげようくらいの気持ちで居るのかなー、程度にしか考えて無かった。私が甘かったのかな。

有る日、突然Yさんから、メールが来た。
しかも、私は休日でスロット堪能中。
「今からデートしない?」
私の頭は「?×無限大」
「どういう意味?」と返信。
「字の通り」Yさん。
「どうしたの?何かあったの?食事くらいやったら良いけど。」と私。
その頃Yさんは奥さんと上手くいってないから別居してて、違う女性と付き合ってるみたいなことを聞いていた(Yさん談)。
「俺のデートしない?は食事の誘いとかじゃなくて、ホテルに行こうってことや。」との返信
私の頭は真っ白。
「それなら無理です。」と返信するのが精一杯やった。
その後はスロット打ち続ける気力も萎えた。

その後、Yさんから保険契約貰ってることもあり何度か訪問しないと行けないこともあったりしたけど、日中は留守と分かっていたから出来るだけ郵便受けに投函して済ませていた。
でも、どうしても書類にサインが必要になり面談した。面談中は何事も無かったかのように、いつものYさんだった。
駐車場に戻り、ふと何気にYさんのアパートの部屋(5階建てのアパートの4階)を見上げたら、Yさんはベランダに出て私を見下ろしていた。夕方薄暗い時間帯だったから部屋に電気が点いていたのでYさんの姿だけが黒いシルエットになっていた。私からはYさんの表情は見えなかったけど、Yさんのその立ち姿を見て、私はうすら寒い恐怖にも似た感情に襲われた。

今まで長い間、私はあなたを旦那のお友だちと思っていたのに、旦那が亡くなった途端にあなたは私のこと女として見てたの?
気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い!
あの黒いシルエットが、その後も暫くの間何度も何度も甦って私を悩ませた。


あれはいったい何だったんやろ。

暫くして姉にその話しをした。
姉は昔のシブがき隊のモックン似の若い頃のYさんしか知らない。
「男なんちゃ、そんなもんなんやないん?」
と、姉は笑って言った。
でも、私は旦那とYさんがお友だちとして楽しく過ごした来た長い時間を共有している。
数年間ではないのだ。25年近くお友だちの奥さんとしてしか存在しなかったはず。

きっと、何かで心が傷ついていたからに違いないと、あの頃はそう思うようにしていた。