私の物語(①井戸の近くの借家)

今日から、少しずつ私の物語を始めよう。
幼い時の記憶が薄れてしまう前に。


記憶の中で、一番幼かったと思われるのは、六畳くらいの薄暗い部屋。
覚えているのは、その部屋だけで、他の部屋の記憶は無い。
一辺の壁を塞ぐ程の大きな茶色い和箪笥があった。今では田舎の古民家にしか無いような、引き出しの持ち手の部分が飾りのような模様のある鉄で出来てた。
あれは多分母の婚礼家具のひとつだったんじゃないかな?
その大きな茶色い和箪笥が薄暗い部屋に有った風景だけを何故だか覚えている。
玄関の古い引き戸を開けるとこれまた古い井戸があって、その井戸を中心に同じような古い家が数件半円形のように有って、軒先が繋がってた。
雨が降っても大丈夫なように井戸の近くまで軒先は伸びてて、地面は長い年月の間踏み固められた赤茶色した土だった。
その井戸でお尻を洗って貰ったような記憶があるから、多分おねしょかお漏らしでもしたのだろう。
2才くらいだったんじゃないかな?
私が産まれて間もなく、夜逃げ同然のように越して来たって聞いたし、父が蒸発する頃だったんだと思う。
父も兄も他界したし、母や姉に聞いても覚えてないという。今となっては誰にも確認出来ない記憶だから、もしかしたら、どこかで記憶が交錯しているかもしれないけど、あの和箪笥の有った部屋の風景と井戸の周りの様子は今でもイメージできる。
その頃、何を感じ何を考えていたとかの記憶は全くない。自我が目覚める前だと思う。

それからの記憶には、もう父は居ない。
次の家に引っ越す前に蒸発したのだ。
父は、私が2才の頃に蒸発したから、やはり、あの井戸の周りに住んでたのは2才から4才ころくらい。

その後の記憶は、◯田屋(漢字だったか平仮名だったかは忘れた)っていう、本当は釣具屋さんみたいだったような記憶があるんだけど、色んな雑貨を置いてた人が大家さんで、大きな川の橋の直ぐ近くに有る二階建ての、長屋みたいな家だった。
二階には大家さんのお店と自宅があって、一階には三軒(だったような気がする)の借家があって、真ん中の家だった(と思う)。
今思えば、凄く変わった建物だったと思う。
六畳二間で、半畳程の小さな台所があって、外にトイレに行った記憶は無いから、トイレは有ったんじゃないかな。
お風呂は無かった。
近所に銭湯(当時、私は「お風呂屋さん」と呼んでいた)があったし、お客さんも多かったから、お風呂の無い家って、あの頃は案外多かったのかもしれない。

今日は、ここまで。